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東京高等裁判所 昭和47年(ネ)942号 判決 1973年11月20日

控訴人 株式会社獅子王産業

右代表者代表取締役 鈴木常次郎

右訴訟代理人弁護士 松原実

被控訴人 和久栄産業株式会社

右代表者代表取締役 石田和子

右訴訟代理人弁護士 隈元孝道

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金七六万円およびこれに対する昭和四五年四月一日から右完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠の関係≪省略≫

理由

一、控訴会社が東京都知事の免許((一)第一二九六三号)をえて宅地建物取引業を営む株式会社であること、および被控訴会社が昭和四四年一二月一〇日、訴外山久株式会社から福島県西白河郡西郷村大字鶴生字シナシ一番の三八山林一三、二〇〇平方米を買受けたこと(以下本件売買という)は当事者間に争いがない。

二、控訴会社は、被控訴会社の依頼により控訴会社営業担当取締役真壁宏和が控訴会社を代理して本件売買の仲介をしたと主張する。

≪証拠省略≫を綜合すれば、真壁宏和(以下単に真壁という)は本件売買当時控訴会社の営業担当の取締役であったこと、本件売買に関する契約書である甲第一号証(乙第六号証)は、真壁と被控訴会社の従業員であった丸岡昭夫(以下単に丸岡という)が作成したもので、そのうち不動文字で印刷してある以外のペン書きの部分はすべて真壁が記入し、買主欄の被控訴会社および代表者の記名押印は丸岡が被控訴会社備付の印を使用してなしたものであること、真壁は控訴会社の取締役である反面、被控訴会社の株主であり、かねてから丸岡と親しくその関係で同会社の求めにより被控訴会社成立以来常時被控訴会社に出入し被控訴会社の営業に関與し、被控訴会社の取締役営業部長の肩書のある名刺を携帯使用していたこと、真壁がこのように被控訴会社に出入しその営業に関與するについては控訴会社において豫め諒承していたこと、真壁は被控訴会社から、固定給の支給は受けないが、仕事の歩合により報酬を受ける約であったことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫

ところで、商法第五〇四条によれば、商行為の代理人が本人の為にすることを示さなかったときでも、その行為は本人の為にその効力を生ずるものであるところ、控訴会社は真壁の代理により本件売買の仲介行為をなした旨主張するのであるが、前記認定の事実によると、真壁は本件売買当時、控訴会社の取締役として控訴会社を代理する権限を有し、若しくはその立場にあったとしても、一方被控訴会社の従業員として被控訴会社側の立場において行動する権限をも有し、しかも、被控訴会社に出入しその営業に関與することについては控訴会社において豫めこれを諒承していたのであるから、このように、控訴会社、被控訴会社双方の立場において行動しうる地位にある真壁としては、本件売買にあたり立会人たる被控訴会社の代理人としての権限ないし資格において本件売買に関與するものであることを明かにしなければ控訴会社はこれに基く法律行為の効力が自己に帰属することを主張しえないものといわなければならず、前記法条の適用がないものと解するを相当とする。前掲証人真壁・同丸岡の証言中には甲第一号証(乙第六号証)の契約書を作成するにあたり、真壁は豫め本件売買の仲介者は控訴会社であり、同人は控訴会社の一員として、すなわち控訴会社の代理人として関與するものであることを明かにし、被控訴会社代表者石田和子、丸岡、真壁の三者で本件売買については被控訴会社において本件土地が売却されてから手数料を控訴会社に支払うことを話合った趣旨の各証言部分が存するが、これらの証言は≪証拠省略≫に照らし容易に信用できず、他に真壁が控訴人の代理人であることを明らかにした事実を認むべき証拠はない。かえって≪証拠省略≫によれば本件売買は、丸岡昭夫と真壁が協議のうえ被控訴会社のためになしたものであることが認められる。従って、控訴会社が本件売買において真壁を代理人としてこれが仲介をなしたこと、すなわち本件売買において控訴会社と被控訴会社間に報酬契約がなされたことを認定できず、甲第一号証(乙第六号証)中控訴会社が本件売買において立会人として関與した旨の記載はその効力を生ずるに由ないものといわざるを得ない。また、他に本件売買につき被控訴会社が控訴会社に対し仲介手数料ないし報酬の支払を約したことを認定するに足りる証拠はない。

三、そうすると、控訴会社が本件売買の仲介をしたことを前提とする控訴会社の本訴請求は爾余の点につき判断するまでもなく失当として棄却を免れない。

よって、右と同旨の原判決は相当で本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条第一項第九五条第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉山孝 裁判官 渡辺忠之 小池二八)

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